湊がそう言うと、紫遥はすぐに否定した。
 
「それは違う!あの時は本気で……けど、これ以上は望んじゃダメだって思ったの。最後だからって、バカなことしたって今は後悔してる。ごめんね、久我くん……」

 紫遥の声は震え、目には涙が浮かんでいるようだった。
 
「それはどういう……」

 すると、ピピピピッとアラーム音がなった。依頼の三時間が経過したのだ。
 
 「……もう行かなくちゃ」
 
 紫遥は目の端に滲んだ涙を拭ったあと、掃除道具を手に持ち、湊に深々とお辞儀をした。
 
 「本日はご利用ありがとうございました」
 
 あくまで私たちは客とスタッフだ、と紫遥に線引きされたようで、湊は無性に腹が立った。

 腹が立って、紫遥を帰したくなくなった。
この人ともっと話したい、もっと一緒にいたい、もっと知りたい。そんな気持ちが湧き上がり、思わず部屋から出ようとしていた紫遥の腕を掴んだ。