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 いつも通り退社し、紫遥は迎えにきていた白色の外車に乗り込んだ。

 リムジンはあまりにも目立つため、湊に頼んで普通車に変えてもらったのだ。それでも高級外車であることは、車種に疎い紫遥でもわかるから、目立つことには変わりはないのだが。

 紫遥が運転手に「お願いします」と声をかけると、運転手がこちらに顔を向けて言った。

「本日は久我家の方に案内するように申し付けられておりますので。二十分ほどで着くかと思います」

「え?久我家に?」

「私にもよく事情がわからないのですが、奥様が仮屋さんをお呼びだと……」

 奥様。つまり湊の母親のことだ。
 もしかして何かしでかしてしまったのだろうか。それとも、湊が母親に結婚のことを話してしまったのだろうか。そうだとしたら、湊から何か報告があるはずだが、何もないということは、結婚以外のことかもしれない。
 湊の母親に呼ばれた理由を考えるが、いずれにせよ事情も説明されず、自分だけが急に呼び出されるということは、いい話ではなさそうだった。

 何も知らない運転手を責めるわけにもいかず、紫遥は動き出す車の中で、不安な気持ちのまま窓の外を眺めた。


 湊の両親が住む邸宅は閑静な住宅街に佇んでいる日本家屋で、外側には高い塀が信じられないほどの距離続いていた。

 中に入り、十分に手入れされた中庭が見える和室に案内されると、そこには淡い色の着物を身に纏った美しい女性が座っていた。
 その容姿端麗さから、誰と言われずとも湊の母親だとすぐにわかった。

「初めまして。仮屋紫遥と申し……」

「あなたのことは知っているわ。いいから、お座りになって」

「はい……」

 促されるまま、湊の母親の目の前に正座して座る。