「デートってまさか、彼女と付き合ってるとかじゃないですよね?まさかね、あはは」

 町田は自分の言葉に空笑いするも、湊は淡々と答えた。
 
「というか、俺、紫遥さんと結婚することにしたから」

「けけけ、結婚!?」

 町田はその衝撃に思わず手元が狂いそうになったが、看板俳優の湊の命を守るため、必死にハンドルを握りしめた。
 自分の大きな声が頭の中で反響しクラクラするが、なんとしても意識は保たなければならない。

「結婚なんて無理に決まってるじゃないですか!自分が何歳だと思ってるんですか?まだ24歳、人気絶頂期ですよ!結婚報道なんて出たら、仕事も減りますし、紫遥さんも熱狂的なファンからバッシングくらいますよ!?」

「そうならないように、紫遥さんのことは俺が守る。それに、俺、恋愛禁止されてるアイドルでもないんだぞ?結婚するくらいで俺が落ちぶれるようなら、俳優としての実力が足りないってだけだよ」

「そういう問題ではなくてですね……!」

 そう言いながら、町田は気づいてしまった。
 昨晩急に湊の母親である、久我聡子から「紫遥に会わせろ」と連絡がきたのは、こういう事情があったからなのだ。
 
 時刻はすでに夜の七時過ぎ。仕事を終えた紫遥は、久我聡子の元に到着しているころだろう。

(紫遥さん……どうかご無事で……!)

 町田は心の中でそう強く願うしかなかった。