世の中のカップルは、いつもこんな気持ちで相手に気持ちを伝えているのだろうか。いつか慣れるといいが、このままでは心臓がもたない。

「あーやばい。やばいな」

 湊が突然しゃがみ込んで、頭を抱え込んだ。

「み、湊くん……?」

「これ以上、俺を弄ばないでください」

「?」

 きょとんと湊を見下ろす紫遥を思わずぎゅっと抱きしめた湊は、鼻腔をくすぐる紫遥の懐かしい香りを感じながら、幸せを噛み締めた。
 
 その後、帰りの車内で湊がどれだけ必死に紫遥を抱きたい気持ちを抑えたか、言うまでもない。

 




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「はあー可愛い!」

 撮影の帰り道、車の中で湊は紫遥と撮った写真を見て頬が緩みまくっていた。
 退勤ラッシュで道は混雑している。今日は早く帰れるかと思ったのに、湊は今から会社に向かうという。紫遥が勤める会社を正式に買い取ることになり、その契約のためだった。
 本業ではない仕事に普段の湊ならむすっとして座っているはずが、今日はやけにご機嫌で、さきほどからスマホを見ながらニヤニヤして、「かわいい」やら「会いたい」やらを叫んでいる。

「さっきから何なんですか。癒しの動物特集でも見てるんですか?」

「何それ?町田、そんなの見てんの?」

「見てますよ。癒しがないと、この激務に耐えられないので」

「へー、やっぱ変わったやつだな」

 町田は「お願いですから僕に休みをください」という嫌味のつもりで言ったのだが、湊には伝わってないようだった。

「それで、何が可愛いんですか?」

「紫遥さん。デートの写真見返すとさ、ちょっとぎこちないんだよな。それがまた可愛くてさー」