「け、結婚?えっと……結婚ってその籍をいれるとかそういう……」
 
 湊の口から出た「結婚」という2文字を理解するのに、紫遥が時間を要してしまうのも仕方のないことだ。
 自分たちは付き合ってもいないし、記憶が正しければ好きだと言い合った覚えもない。それなのに、突然「結婚」だなんて。紫遥は目を白黒させた。

「はい。その結婚で間違いないです」

「……本気で言ってるの?」

「ダメですか?」

「いや、ダメっていうか、そもそも私たち付き合ってもないし、それに……」

「けど、キスもしたしセックスもしました。それは先輩が、俺のこと"特別"だと思ってくれてるからですよね?」

「それは……!」

 改めて言葉にされると、恥ずかしくて思わず顔をそらした。しかし、湊の言っていることは否定しようのない事実だ。紫遥が湊にキスをしたのは、そして湊に初めてを捧げたのは、いつだって湊が特別な存在だからだった。
 すると、湊がすっと立ち上がり、羞恥心で思わず後ずさった紫遥の腰をぐいと自分の方に近づけた。

「……っ!」