「高校突然辞めちゃったのって、先生のせいなんですよね?それに、真夏ちゃんのお父さんって一体……」

「やめて」

「え?」

「久我君には関係ないことだから」

 そう言って睨む紫遥の目の奥には、深い悲しみが見えた。

 紫遥が立ち上がり、その場を去ろうとすると、湊は紫遥の腕を掴み、自分の胸に引き寄せた。

「関係なくないです」

「……」

「そんなに俺、頼れませんか?」

「……」

「先輩の抱えているものがどれだけ大きくても、今の俺ならそれを受け止める自信も、助ける自信もあります」

 湊は紫遥の顔をじっと見つめて言った。

「もう、先輩は誰かに頼っていいんですよ」

 紫遥の目から、大粒の涙がこぼれた。
 ずっと我慢していたのか、一度溢れ出したら止まらないようで、紫遥の目からとめどなく透明の雫が流れていく様子を、湊はただただ受け入れ、紫遥の言葉を待った。
 
 不安そうに俯く、彼女の冷たい手をぎゅっと握りしめると、紫遥はぽつりぽつりと話し始めた。



 紫遥から聞く話は、思った以上に残酷で、思わず眉をひそめてしまうような内容だった。

 8年前、高校3年にあがった頃から、山口からの行為が始まったという。
 元々は、家に両親がおらず、一人で暮らしている紫遥を心配して、部活動以外のところでも親身に相談に乗ってくれるいい先生だった。思わず感情が昂り、泣いてしまった時も、山口は優しく紫遥を抱きしめ「いつでも先生に頼りなさい」と言い、紫遥の孤独な心を満たしてくれた。

 しかし、徐々にそれは単なる生徒を心配する教師の行動というよりかは、一人の女として見られている、触れられていると感じるようになり、ある日、山口は紫遥の唇にキスをした。
 驚き、最初は拒絶したが、すると今までの優しい口調が一転し、山口は追い詰めるような言葉をいくつも吐いた。