それが演技にも影響しているのかもしれない。そう思った途端、突然紫遥への気持ちがぶわっと蘇った。単なる好意でも憎しみでもない、あの人は今どこで何をしているのか。いまだに自分に影響を与え続ける女性について、どうしても知りたくなったのだ。

 そして、偶然にも兄に勧められた家事代行サービスのスタッフ一覧で、「仮屋紫遥」の名前を見た時は、さすがに無神論者の湊も、神の導きだと思ってしまった。
 
 中途半端に期待させておきながら、黙って突然いなくなり、いまだに自分の心のどこかに存在する、手の届かない人。
 そんな人が、今は自分の前で動揺を隠せずにいる。その姿を見れただけで、マネージャーの名前を借りてまで、Bistiaを利用したかいがあるというものだ。
 
「久しぶりですね。まさかこんな形で再会するとは思いませんでしたけど」

 「町田って名前は……」

 「マネージャーの名前です」
 
 湊がそう言うと、紫遥の驚いた表情はいつのまにか、いつものポーカーフェイスに戻り、俯きがちで「そう」と言った。