代官山の自宅に帰ると、真夏は疲れてしまったのか、そのまま二階にあがりすぐに寝てしまったようだった。
 
 湊は、酒がまわった身体をソファーにあずけ、今日店で耳にした会話を思い出していた。
 まだ小さい真夏を置いて、二人の母親は出て行った。父親は不明。そして、真夏を育てるために、紫遥は高校を辞めた。それが、紫遥と再会してから、湊が知った事実だった。

 しかし、山口の口ぶりはまるで真夏の父親を知っているかのようだった。それに……

『放課後、毎日先生に呼び出されて、気持ち悪い、性的なことをされるのが嫌だったし、こんな先生に頼るくらいなら、自分で真夏を育てるって決めて……だから、辞めたんです』
 
 聞き間違えでなければ、山口は生徒である紫遥に性的行為をしていたということになる。
 性的行為。それがなんなのかは想像もできないし、したくもないが、二人の関係は湊が思っているものとは違ったらしい。

 何があったか詳しくはわからないが、今日、少なくとも山口と紫遥を会わせるべきではなかった。
 紫遥のためのサプライズ、高校時代の恩師との久しぶりの再会に、喜んでくれるだろうと思い込んでいた自分を殴り飛ばしたい。