「いやあ〜まさか教え子に奢ってもらう日がくるとはなあ。感慨深いよ」

「高校の時は進路のことでいろいろ迷惑かけちゃったんで、お詫びもこめて、ですよ」

 湊の言葉に、山口の目尻には一層深い皺が刻まれた。

「仮屋、こんな外見も中身も男前なやつ捕まえられてよかったな」

 山口は、湊の後ろで愛想笑いをしていた紫遥にそう言った。
 湊は振り返って紫遥の反応を確認したかったが、なんとなくそれはできなかった。

「先生、誤解ですよ。俺たちただの先輩後輩で……」

「誤魔化しても無駄だ!真夏ちゃんから聞いたぞ、二人は今一緒に住んでるんだってな。お前が仮屋にぞっこんなのは知ってるが、真夏ちゃんの前で、あんまり羽目外しすぎるなよ」

「……っ! 先生!」

「ははは!お前の焦った顔を見ると、安心するよ。俺の知ってる久我湊は、テレビで見るようなクールな男じゃないもんなあ」

 山口に軽くど突かれた湊は、「からかうのやめてくださいよ」と表面上は笑っていたものの、心の中では紫遥と山口の関係性が気になって、心から笑えなかった。