結局その日は最後まですることなく、湊は気まずい雰囲気のままその場をあとにした。

 最後に、紫遥と何を話したのかは覚えていないが、美術室から出たあと、身体の奥底から湧き上がる怒りの感情は、今でも鮮明に思い出せる。
 
 意味がわからなかった。好きじゃないのに、なぜ抱いてなんて言うんだ。なんでキスなんてするんだ。なんであんな風に自分の愛撫に応えたりするんだ!
 ムシャクシャして、目に入る全ての物に悪態をつきたくなった。

 そして、その日を最後に紫遥と会うことはなくなった。夏休み明け、彼女が高校を退学したことを知った時は、背筋が凍りつく思いだった。

 何故、どうして、俺のせい?あの後何があったんだ?

 そんな問いが頭の中に充満し、吐き気がした。
 
 紫遥と激しく身体を絡め合わせた記憶は、湊にとって辛い思い出として、心の中にしこりとして残った。

そのせいかは定かではないが、湊はどんな女性を抱く時も理性を失うことはなく、慎重になった。頭の中で相手との関係性を分析し、自分に対する好意がどの程度のものか推し量ってしまうのだ。