「あ、あんた、私に謝ろうって気はないの!?」
 
「せっかく誘っていただいた合コンを途中で抜けてしまったことは、本当に申し訳なく思ってます。すみません。ただ、それ以外の、身に覚えのないことで責められても困ります」

紫遥に言い返された悔しさからか、香奈子は顔を真っ赤にし、憤然と立ち上がった。二人の間には険悪な空気が流れたが、不思議と紫遥は、香奈子に対する恐怖心や遠慮が消え失せていた。
 
 ブルブルと怒りに震えていた香奈子は、バンと大きな音を立ててテーブルを叩き、

「マジで調子乗ってんじゃねーよ、クソビッチ!」

 というありきたりな捨て台詞を残して、足音荒く去っていった。

 香奈子が目の前からいなくなってから、紫遥はようやく大きく呼吸をした。
 
もっと早くこうしていればよかった。面倒だからと、今までと同じように黙ったままでは舐められる。強気な態度で出れば、煙たがられることはあっても、過干渉されることも、男関係に巻き込まれることもなくなるはずだ。

 過去を乗り越えるくらい強くなるには、こんな所から変わらなければいけないのだ。


 そう決意した紫遥の元に、店員が2人分のランチセットを運んできた。とても1人で食べ切れる量ではないし、今更キャンセルなどできるわけもない。

紫遥は、消え入るような声で「食べきれない分は持ち帰ること可能でしょうか……?」と店員に尋ねた。