「まあなー俺もビックリしたよ。仮屋、今頃どうしてるんだろうな……」

 山口は昔の記憶を辿るように遠くの方を見て、目を細めた。

 あれからもう6年も経っている。山口が紫遥の現在を知らないのは当然だ。今、湊の家で家政婦をしていると知ったら、どんな顔をするだろうか。

 湊が紫遥のことを話そうとすると、山口は時計を見て、大きく目を見開いた。

「もうこんな時間か!そろそろ学校に戻らないと。お前も仕事中だろ?引き止めちゃって、悪かったな」

「いえ。久しぶりに話せてよかったです。あ、そうだ。俺の連絡先教えるんで、今度飲みに行きましょうよ」

 サプライズで山口を会わせたら、きっと紫遥も喜ぶはずだ。それに、今のギスギスした関係が高校時代の楽しかった思い出話をすることによって、緩和されるかもしれない。
 
 早速、今日家に帰ったら、紫遥にきちんと謝った後、「会わせたい人がいる」と言って、飲みにでも誘おう。それで許してもらおうというわけではないが、なんとなく元の関係性に戻れる気がした。

 山口と連絡先を交換した湊は、先ほどよりも明るい顔でスタジオへと戻っていった。



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 昼休憩になると、香奈子が紫遥のデスクまで来て、「じゃあ、話そうか」と不機嫌そうに言った。

 今日、紫遥は朝一で香奈子の元に行き、合コンを途中で抜けてしまったことを謝ったが、昼じっくり話そう、と追い返されてしまった。

 合コンから数日経った今でも、彼女の怒りはおさまっていないらしく、紫遥は暗い気持ちで香奈子のあとに続き、オフィスのすぐ近くにあるカフェに向かった。

「それで、なんで急に男と帰ったわけ?」