『秘密。けど、湊が紫遥ちゃんに夢中になるのもすごくわかる。彼女、すごく魅力的だね』

 魅力的。周が女をこう褒める時は、いつだって性的な行為の後だった。あの男は女を自分の欲を満たす便利で綺麗な道具としか思っていない。だから、周の女性に対する褒め言葉は、決して喜んでいいものなんかじゃなかった。

 沸々と湧き上がる苛立ちをなんとか抑え、スマホの電源を切った。紫遥と周の間に何かあったのは確実だ。だが、今の湊に、その何かを聞く余裕はなかった。



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 紫遥がリビングで真夏の宿題を見ていると、玄関からガチャリと音がして、疲れた顔の湊がリビングに入ってきた。

「あ、おかえりなさい」

「あ、やっと帰ってきた!ねえ、もう勉強終わりでいいでしょ?今日、湊さんとゲームする約束なんだから!」

 目をキラキラと輝かせて真夏がそう言った。
 さっきまで眠そうに目を擦りながら数学の問題集を解いていたとは思えない。

「それはいいんだけど……」

 勉強は湊が帰ってくるまで。元々そういう約束だったから、別に勉強を切り上げようが、ゲームをしようが、構わない。けれど、疲労からか、不機嫌そうに荷物を置く湊に真夏の相手ができるとは思えなかった。

「久我くん、すごい疲れてる?顔色悪いような……」

 紫遥が心配してそう尋ねると、湊は被っていた帽子をテーブルに置くと同時に、パッと表情を変え、ニッコリと微笑んだ。
 
「そんなことないですよ。今日は撮影早く終わったので、いつもより元気なくらいです」

「そう……?」