今日は中断されていた映画の濡場シーンの撮影があり、朝から緊張で吐き気と頭痛に悩まされていたが、本番で一発OKが出たことで、一気に心が晴れた。

 湊は半裸のままベッドに座り、喉を鳴らしてペットボトルの水を飲む。
 
 監督に「貪るようなセックスをしろ」と言われ、屈辱的な思いもしたが、やっと納得してもらえる濡場シーンを演じることが出来た。やはり紫遥との一夜のおかげだろうか。

 「湊、私にもその水ちょーだい」

 ベッドで横になっていた女優、笹石結菜が湊に声をかけた。

 「ああ」

 ペットボトルを渡すと、結菜は残っていた10分の1ほどの水を全て飲み干し、「たくさん喘いだから喉渇いちゃったんだよね」と、悪戯っ子のような笑みを浮かべ、言った。
 
 結菜と湊は1年前まで恋人同士だった。しかし、お互いに仕事が忙しくなり、破局。半年ほど付き合ったが、別れはそこまで苦ではなかった。
 彼女のことは好きだった。とは思うが、紫遥を想う今の自分と比べると、結菜に対する思いは恋愛とはまた別の感情だったのかもしれない。

「ねえ、この後暇?やっと大事なシーン撮り終わったんだし、お祝いに飲みに行こうよ」

「そういうのはクランクアップまで待てよ。まだ撮り終わってないシーンあるんだから」

「え〜いいじゃん。1年ぶりにまともに話すんだから。湊も久々に触れ合って、人肌恋しくなったんじゃない?」

 結菜のしっとりと汗ばんだ手が、湊の手に重なる。

「人肌恋しい、か……」