まあ、一回ヤッたら飽きるんだけど。という言葉を飲み込み、周が紫遥の顔に手を伸ばす。
 
 女を懐柔するには、歯が浮くようなセリフを並べるだけでよかった。周の美貌と財力、そしてその後ろに存在する久我家の名前の影響が大きすぎるせいで、大袈裟なセリフの方がよりロマンチックに感じられる。
 
 そして、ほとんどの女性は久我家の御曹司に言い寄られた優越感にどっぷりと浸り、周に夢中になるはずだった。
 しかし、紫遥はその手を躊躇なく払った。
 
「結構です」

「え……」

 周は、先程まで控えめだった紫遥の態度の変化に驚き、目を見開いたが、またすぐにからかうような口調で会話を続けた。

「どうして?君のことを便利な家政婦としか思ってない湊には、簡単に身体を許したのに、紫遥ちゃんを好きだっていう僕とはしないって……あ、もしかしてこのまま家政婦続けてれば、湊と付き合えるとでも思ってる?」

「……思ってません」

「ふふっ」

 紫遥の睨み顔が思った以上に自分を欲情させることに、周は喜びを隠せずにいた。
 口元がだらしなく緩むのを、手で必死に抑える。

「ごめんごめん、そんなに睨まないでよ。僕の言い方が悪かったね。けど、湊は残念ながら、簡単に自分に身体を許す女が大嫌いなんだよ」

 周の言葉の棘が身体中に刺さって、本当に痛みを感じるようだった。