すると、周は紫遥にぐっと近づき、顔を覗き込むようにして言った。

「けどさ、湊とのセックスってつまんないでしょ?」

「え?」

「湊の元カノとヤッた時、聞いたんだよね。いつもどこか上の空で、マニュアル通りのセックスだって。親の反対押し切って俳優になったくせに、意外と夜は慎重派なんて、可愛いでしょ?僕の弟」

 ふふっと周に笑いかけられたが、紫遥はその目を見れず、視線をそらした。
 自分とは違い、湊が他の女性と関係を持ったことがあることはわかっていたが、改めて聞くと複雑な気持ちになる。
 
 それに、セックスがつまらなかったか、なんて聞かれても、紫遥にそれを正確に判断する術はない。紫遥にとって、湊との行為が初めてであるし、普通の行為がどういうものなのかも知らない。
 
 だから、もしかすると他の女性にとってはつまらないセックスなのかもしれないが、紫遥にとっては、あの時のことを思い出すだけで、身体の奥がじわっと溶けてしまいそうなほど、湊との行為は”良かった”のだ。

 紫遥が何も言わないのを見て、周は口角をあげ、さらに顔を近づけた。

「だからさ、物足りないなら、僕が紫遥ちゃんの相手になるよ」

「はい……?」

「実は初めて会った時から、紫遥ちゃんのこといいなって思ってたんだよね。出会ったばかりでこんなこと言うと嘘くさいけど、本当に、ビビっときたんだ。一目惚れ、っていうのかな。僕なら湊と違って、昼も夜も紫遥ちゃんを満足させられるし、欲しいものはなんだってあげられる。僕ね、湊と違って一途だよ。セックス中は相手のことしか考えないし、見えない」