魅惑的なオーラは相変わらずあるものの、あの時の明るさは失われ、いつもどこか自信なさげで、陰りのある表情を見せることが多々あった。十代から並大抵ではない苦労を重ねていれば、それも仕方のないことなのだろうか、と湊は紫遥の悲しげな笑顔を思い出した。

 「じゃあ、湊さんは仮屋さんの才能に惚れたんですね」

 町田はそう言ってから、自分の失言に気付き、パッと手で口を覆った。
 しかし、湊の反応は意外なものだった。

 「惚れたのは、多分それだけじゃない」

 「え?」

 「先輩が、初めて俺を認めてくれたから。死人同然だった俺を生き返らせてくれたからだと思う」

 湊はあの頃の自分を思い出し、懐かしくなった。

 あの頃、親に敷かれたレールを嫌々ながら歩くしかなかった湊は、反抗的な気持ちを持ちつつも、自分にはこのレールから降りる勇気も、力もないのだと諦めていた。

 ただユラユラと前に歩く人達のあとに続いていくだけ。なんの心配もなかった。けど、なんの幸せもそこにはなかったのだ。

 だが、紫遥がレールの外側から湊に手を差し伸べてくれた。レールを降りても、無事に生きていける根拠なんてなかったが、紫遥の笑顔は湊に勇気を与えた。
 
 「町田。俺がこうやって俳優になれたのも、先輩のおかげなんだよ」

 そう言って微笑む湊を見た町田は、ますます湊の気持ちがわからなくなった。

 果たして仮屋紫遥に対する思いは、尊敬なのか、郷愁なのか、はたまた執着なのか。
 
 町田もまた、普通とはかけ離れた環境に長くいすぎたせいで、湊の思いが単純な恋だということに気付けずにいた。