紫遥の魅力は一言では言い表せない。なぜか惹かれる。そのなぜかを説明する術が湊にはなかった。

 数分経っても、うーんうーんと唸り続ける湊に、呆れてため息をついてしまいそうになるのを堪え、町田はさらに質問を投げかけた。

 「高校の先輩なんですよね?学生時代はどんな方だったんですか?」

 町田の質問にパッと顔を上げたかと思うと、湊は即座に答えた。
 
 「強い人だった」

 「強い人?」

 「ああ。金もなくて、頼れる両親もそばにいなかったから、相当辛い環境だったはずなのに、いつも明るかった。俺の行ってた高校なんて、私立だからすごい金がかかるのに、先輩は難しい条件を乗り越えて奨学金で通ってたんだよ。バイトも確かたくさんしてたと思う。そんな生徒、あの高校には1人もいなかったのに」

 「たしか湊さんの通ってた高校って、東秀高校ですよね?あの、金持ちのボンボンと極小数の天才しか通えないっていう……」

 「そうだな。そして俺はその金持ちのボンボンで、先輩は極小数の天才だった」

 湊はため息をついた。

 紫遥は素人目から見ても絵の才能があった。それだけじゃない。塾にも通っていないのに、成績はいつも学年トップだったという。湊の学年にまでその噂が流れてくるくらいだから、紫遥の優秀さは相当のものだったに違いない。

 なのに、彼女はそれを突然捨ててしまったのだ。
 真夏を育てるためだけに。

 だからだろうか、紫遥の雰囲気が高校の時のものと比べ、変わってしまったのは。