なぜか湊が隣にいると安心した。触れられても嫌な気がしないどころか、湊の身体のどこかに触れていた方が精神が落ち着いた。だから、初めての夜は、自分でも驚くくらい快感に溺れてしまったのだ。
 
 それはきっと湊がたくさんの経験を経てきたからで、自分に男性経験がないからなのだろうとは思うけれど、それでも湊は特別で、自分が簡単に近付いてはならない相手だった。

 

 紫遥は服を脱ぎ、熱めのお湯で身体を流した。鏡に映る自分の裸体を見て、この身体の隅々に湊が口付けをした日を思い出す。

彼の熱い舌が敏感な部分を優しくなぞったかと思えば、いつのまにか口腔内に侵入し、息をつく間もないほど激しく紫遥を責め立てたあの日。
 そして、紫遥は過去に捧げられなかった初めてを、ようやく湊に捧げたのだ。

 湊が自分に対して何の好意を持っていなかったとしても、性欲を解消するためだけの行いだったとしても、別に良かった。
 
 湊と身体を重ね合わせたことで、自分を縛っていた固い結び目がようやく解けていったように感じたのだ。
 初めてこの身体に触れたのが湊ではないという事実も、忘れてしまいそうだった。



 紫遥がシャワーを浴び終え、タオルで全身拭いたあと、ふと自分が新しい着替えを部屋に忘れたことに気付いた。このまま真夏が浴室に来るまで待つわけにもいかないし、湊は基本的には1階にいると言っていたから鉢合わせる可能性も低い。紫遥はバスタオルを身体に巻いて、おそるおそるドアを開けた。

 廊下はシーンと静まり返っており、人の気配がしない。浴室から部屋までは15歩程度だ。さっさと取りに行って着替えよう。このままでは風邪をひいてしまう。

 紫遥が浴室のドアを閉め、ゆっくりと脚を前に踏み出すと、突然浴室の前にあるドアが開いた。
 
「!?」