そうだったのか、と一瞬ヒヤリとする。
 
 紫遥は男に触れられることが本当に苦手なようだった。そんなことも知らずに、咄嗟にふらつく紫遥の身体を支えてしまったが、拒絶されなくてよかった。

 だが、そもそも高校時代の紫遥を知っている身からすると、紫遥がそんなにも男嫌いだなんてにわかには信じられない。

 高校の時、初めて会った時も気さくな印象を持ったし、たまに美術室以外で先輩を見かけた時も、男子生徒と笑いながら話していたし、特に変わった様子もなかった。

 歳の差的に、その頃の真夏はまだ小学生にもなっていない頃だろう、記憶は曖昧なはずだ。紫遥が男嫌いになったのは、高校を辞めたあとのことかもしれない。そこまで男に嫌悪感を持つに至る、何かがあったのだろうか。

 湊が考えを巡らせていると、真夏がため息をついた。

「けど、いくら紫遥ちゃんが湊さんのこと好きでも、湊さんにその気持ちがないなら仕方ないですね」

 がっかりした様子でそう言う真夏に、湊は慌てて訂正を入れようとするが、真夏は間髪入れずに言った。

「だったらせめて、紫遥ちゃんにいい人紹介してあげてくれませんか?湊さんのお友達だったら、いい人そうだし。紫遥ちゃんには普通の人みたいに、恋をしてほしいんです」

 それは完全に真夏の間違った偏見だ。湊の友人のほとんどは芸能関係者だったが、当然の如く、全員チャラい。女には苦労してこなかった人生だったからか、相手に気を遣うことを知らないし、好かれるために努力することをしない。する必要がないのだ。