湊が罪悪感で顔を歪ませていることにも気づかず、真夏は話を続けた。

「けど、紫遥ちゃん、湊さんと一緒にいる時は自然なんです。だからてっきり二人は恋人関係なのかなーって思ったんですけど」

「いや、恋人では、ないよ……」

 身体の関係を持ったあとに、こうやって会い続けることになった女性は紫遥が初めてで、それだけでも湊にとっては特別なことではあるが、お互いに「好き」だなんて口にしたことは一度もないし、気持ちを確認したこともない。

 それに、「俺のことどう思ってますか?」なんてセリフを吐いたら、またあの日と同じことが起こりそうで、どうしても気が乗らなかった。
 
 だが、ずっと気になってはいた。紫遥は今の自分のことを一体どう思っているのだろうか。

 そんな湊の考えを見透かしたように、真夏が言った。

「けど、紫遥ちゃんは、湊さんのこと好きだと思いますよ」

「え?」

 真夏の言葉に、胸がドクンと高鳴る。
 
「だって、紫遥ちゃんがあんなに男の人に気を遣ってるの見たことないし、好きじゃなかったら、いくら後輩だからって、住み込みの家政婦なんてしないと思うんです」

「あーそれは、好きだからってわけじゃないと思うけど……」

 半分脅すような形で、家政婦の仕事を承諾してもらったのだ。そのことを知らない真夏の目には、まるで紫遥が湊に好意があるように見えるのだろう。

「それに、男嫌いなはずなのに、湊さんといる時は全然嫌そうじゃないですし。今日も2人で帰ってきた時、湊さん、紫遥ちゃんの肩、支えてたじゃないですか。あんなの、いつもの紫遥ちゃんだったら絶対拒絶してますよ」