予想外の質問に湊は面食らった。
 てっきり今日2人で帰ってきた理由を問い詰められると思っていたが、紫遥を好きかどうかなんてことを聞かれるなんて。

 湊は「好きと認めてしまうのは躊躇われるが、なんとなく放っておけないし、自分のことを好きになって欲しいと思っている」なんて自分でも整理のついていない複雑な感情を、中学生の真夏に吐露するわけにもいかず、「先輩のことは好きだよ、人としてすごく」と答えた。

 真夏の質問はさらに続いた。

「恋愛感情はないんですか?」

「うーん、どうだろう。恋愛なんて久しくしてないからな、ちょっとわかんないや」

「……大人って、やっぱり恋愛感情がなくてもキスできるんだ」

「えっ?」

 聞き間違いかと思ったが、真夏は「恋愛感情がなくてもキスができる」と確実に口にした。
 
 紫遥と交わったことを知っているのかと思ってヒヤリとしたが、あの夜は部屋に2人きりであったし、そのあと男女としての触れ合いは一切ないのだから、見られたわけでもない。ましてや、紫遥がそんな話を妹にするわけがなかった。真夏が言っているのはきっと別のことだ。

「じゃあ紫遥ちゃんとは、一夜限りの関係ということですか?」

 真夏の言葉に、思わず口に含んだ水を吹き出しそうになる。

「ゴホッ……真夏ちゃん、何言って……」

「お姉ちゃん、一度朝帰りしたことがあったんです。今までそんなこと一度もなかったのに。あれは湊さんと会っていたんですよね?」

 あの夜のことを言っているのだ。思い当たる節はあったが、湊が黙り込んでいると、真夏がさらに言葉を続けた。