とはいえ、一晩で会社を買うことが出来るはずもなく、湊は取締役とアポを取り、買収の口約束を取り付けただけだ。元々業績不振でリストラを検討していた会社だ、もう限界だったのだろう。湊の出した条件が良いこともあり、二つ返事で売却することを決めていた。

 「金と知名度があるって便利だよなあ」

 後部座席で満足そうにうんうんと頷く湊を、バックミラー越しに見た町田は、呆れたように言った。
 
 「本当にあの会社を買収するつもりですか。そもそもいくら仮屋さんのためとはいえ、業績が思わしくない会社を買うなんて……」

 「業績が悪いのは商品の質が悪いからだ。広告制作については申し分ないクオリティーだし、俺の会社の商品の広告制作を発注すれば、業績なんて鰻登りだろ。とりあえず粗悪な化粧品の生産、販売は即刻中止させればいい」

 会社を買収して取締役として全権限を得て、紫遥の安全を保証し、さらに望み通り正社員にするという計画は、湊の頭の中で完璧なものになっていた。今まで自分に対して何の好意も、あるいは何の興味も見せなかった紫遥も、さすがにこれには驚き、そして自分に対して特別な感情を抱いてもおかしくはない。

 そして、湊の次の悩みといえば、紫遥にどうやって正社員への契約更新の話をしようか、ということだった。週末に青山にある行きつけのレストランに行って、サプライズでケーキを出して……と湊がカレンダーアプリを開き、予定を確認しようとした時、ふと思い出した。

 (たしか今週末、合コンだって言ってたよな……)

「町田、どうしたら先輩が合コンに行くのを防げると思う?」