紫遥が思い切り顔をしかめたのを見て、湊は紫遥の隣に座り、スマホを覗き込んだ。

「怒ってないから連絡をくれ。合コンのことも、仮屋は付き合いで行くだけなのに嫉妬してごめん。帰りは俺が迎えに行くから、店の場所を教えて……って、合コン!?」

 突然の声のボリュームアップに、紫遥の身体がビクンと跳ねた。

「先輩、合コン行くんですか?」

「うん、なんかそういうことになっちゃって……」

「なんで合コンなんかに?てか、合コンって何か知ってます?」

「それくらいわかるよ。出会いを求めて、見知らぬ男女が食事する会でしょ?」

 固すぎる解釈な気もしたが、つまりはそういうことだ。紫遥は男性との出会いを求めて、見知らぬ男との食事会に参加しようとしている。久我湊がこんなに近くにいながら、なぜ他の男と出会いたいと思うのだ!?と、湊は信じられない気持ちでいっぱいになった。
 
 確かに紫遥と自分は付き合ってもないし、合コンに行くことに対してどうこう言える関係性ではない。だが、普通なら人気俳優の自分と生活を共にして、他の男と会いたいと思う女性が存在するはずがなかった。

 紫遥が合コンに行くというだけで、相当なショックを受けている湊の気持ちなどつゆ知らず、紫遥は頭を抱える湊を、きょとんとした顔で見つめていた。

 すると、スマホが鳴り、篠原からもう一件メッセージが届いた。
 二人がスマホ画面を見ると、そこにはまるで脅しのような文言が並んでいた。

『このまま俺のこと無視し続けるなら、酷い目にあっても文句は言えないからな』
『後悔して泣いて謝ってももう遅い』
『俺を怒らせたらどうなるか、教えてやる』

 湊は篠原の自分勝手な物言いにかあーっと頭に血が上るのを感じた。
 好きだのなんだの言っておいて、相手に好意がないとわかると逆上する。モテない男のやりそうなことだ。

 「こんなの無視してくださいね」と、紫遥の方を見ると、紫遥の顔は血の気を失ったように、真っ青になっていた。