「……」

 連絡できなかったというより、連絡しても無視されているものだとばかり思っていた。ちょうど美術室でのことがあった後だったこともあり、まさか母親が紫遥の存在を知り、連絡を取れないようにしているとは思いもしなかったのだ。

 「それで、今回のスキャンダルの相手がその”仮屋紫遥”って言うからさ、驚いちゃって。もしかして、今まで見合い話を全部断ってたのも、高校卒業してからも隠れてその子と会ってたからじゃ……」

 「そんなわけないでしょう!そもそも彼女は部活の先輩ってだけですし、スキャンダルも勝手に記者が勘違いしただけで、兄さんが思っているような関係性じゃ……」

 関係性じゃない、と言いきろうとして、湊は押し留まった。
 ここで紫遥との関係を完全否定してしまえば、周が紫遥に何をしようと、文句は言えない。

 周は典型的なサイコパスで、恋愛をただのゲームだと思っている。惚れさせられれば勝ち。勝ったらもう相手に興味はなくなり、タバコの吸い殻をドブに捨てるかのように、ポイと放り投げてしまう。
 そしてそんな周が今、興味を持っているのが、自分とのスキャンダルがあった相手、さらに高校時代に母親が連絡を取るのを禁止した女なのだ。周の興味を引く遊び相手としては十分だろう。

 湊が「まだ付き合っていないが、いずれそうするつもりだ」といった類のことを話そうとしたその時、楽屋の外からガタっと物音がした。

「誰だ――?」