そんな男のことだ。自分がスポンサーを務めるドラマ撮影の見学などという、金にならない仕事で時間を浪費するはずがない。

「で、本当は何しに来たんですか?兄さんが撮影の見学に来るなんてこと、今まで一度もないじゃないですか」

「鋭い!さすが湊!僕の麗しい弟だ!!!」

「……いいから本題に入ってください。次も撮影があるんですから」

 苛立つ湊を見ても、周は動じることなく、にっこりと微笑んだ。

「実は、Bistiaの広告の話なんだけど……」

「撮影は来月下旬からというのは決定事項です。仕事がつまってて、空けられそうには……」

「そうじゃなくて、僕が聞きたかったのは、スキャンダルのことだよ」

 結局、湊がBistiaで住み込みの家政婦を雇っていると言う記事が先に出たため、湊の部屋から一般女性が出てきたというスキャンダル記事は世に出ることはなかった。しかし、何か問題でもあったのだろうか。

「なんですか?」

「湊の恋人ってどんな子なの?」

「!?」

 予想もしていなかった質問に、湊は目をパチクリとさせた。

 そもそも紫遥は恋人ではない。れっきとした住み込みの家政婦だ。高校の先輩で、初恋の相手で、一夜を共にしたことがあるという特別なバックグラウンドはあるが、周がそれを知っているはずがない。

「恋人じゃないですよ。兄さんも知っている通り、あれは家政婦として雇っていた女性で……」

「じゃあ、片思いの相手だ!」

 なぜか嬉しそうな周を、湊はギロリと睨む。

「何言ってるんですか。彼女と俺は何もありませんから。そもそも俺に、女にうつつを抜かしてる暇は……」