季節はまだ初冬だというのに、池袋のとあるスタジオでは、真夏のシーンを撮影していた。

 自分の出番が終わり、休憩に入っていた湊がジャンパーを羽織りながらスマホを確認すると、紫遥たちの送迎を頼んでいた運転手から、二人を無事に自宅に送り届けたというメールが届いており、一安心する。

 本来なら変な虫がつかないよう自分が車で送り迎えをしてやりたいが、ちょうどドラマの撮影と被り、数ヶ月はすれ違いの日々になる。
 とはいえ、どうにか合間を縫って紫遥に会いたい。そう思ってスケジュールアプリを開いた自分に、思わず乾いた笑いが出た。

 (いつから俺は、こんなにも先輩中心になってるんだろう)

 今までの湊であれば、女のために自分のスケジュールを調整することなど決してなかった。
 自分の方が忙しいし、時間もない。だから、合わせるのはいつも相手の方で、女は湊が呼べば、喜んで自分の予定を空けてくれた。それが湊にとっての当たり前だった。

 しかし、今の状況を湊をよく知る人間が見たら、驚くだろう。「自分中心にしか動かなかったお前が――!?」と。