「この前、合コンに誘ってただろ?あれ、いつ行くことになったんだ?」

 「今週末だけど」

 「キャンセルできないのか」

 「無理に決まってんじゃん。ていうか、なんでキャンセルする必要があるの?」

 「それは……その……」

 香奈子が厳しく問い詰めると、篠原は急に口をモゴモゴさせ、視線を泳がせた。


 人の感情に人一倍敏感な香奈子は、篠原が紫遥に好意を持っていることに、随分前から気付いていた。

 篠原は顔も整っている方だし、仕事もできる頼りがいのある上司ではあるから、本性を知らなければ、大体の女性社員は篠原に大して好意的な反応を示す。

 しかし、実際の篠原はストーカー気質があるのか、思い込みが激しく、香奈子も関係を切る時、相当苦労した。今回も、どうやら紫遥が自分のことを好いていると勘違いしているらしい。



 「仮屋は、俺を嫉妬させようとしてるみたいだけど、合コンなんてのに参加したら、後から後悔すると思うんだ。だから、お前から止めてやってくれないか」

 「そんなの自分で……」


 そんなの自分で言えばいい。そう言おうと思った瞬間、香奈子はこの面白くない現状を打破するために、この男を利用できるのでは、と思い始めた。


「ねえ、仮屋さんと付き合えるように、私がアドバイスしてあげよっか?」

 香奈子の企みに気づくはずもなく、篠原は前のめりでコクコクと頷いた。