「うん。じゃあ、お昼を食べてから俺の両親にそのまま会おうか。婚姻届の保証人の欄に名前もらいたいから」
どこまでも効率的に動く和登さんは、そのまま車を走らせた。着いた場所はベリが丘に越してきてから行きつけだという、櫻坂にある料亭へと車を停めた。高級感あふれる木の造りが特徴的だ。
木の良い香りが漂ってくる。
赤い暖簾をくぐり、中へ入ると、カウンター席へと私を案内する和登さん。
「亜矢、ここに座って」
「は、はい!」
言われた通り指定された席へと着くと、私に「あの人が亭主。パリで十年間修行されてここに店を構えたんだよ」と、貫禄がある料理長を紹介してくれた。亭主にも、
「亭主、今日は僕の婚約者を連れてきました」
私のことを紹介してくれる和登さん。『婚約者』という響きにドキッとする。
「初めまして。咲村亜矢といいます」
「これはこれは! 婚約者とは驚きです! 随分可愛らしい方で!」
ペコリと頭を下げると亭主は見た目とは相まって、とても優しい笑顔を私に向けてくれた。
和登さんのオススメで懐石料理を注文した。お酒と先付から水菓子まで順に出された。お刺身や茶碗蒸し、お吸い物、お肉に御飯。どれから食べて良いのか分からず戸惑っていると、和登さんから俺の真似して順に食べてみてと言われ、料理の前にお酒を一口飲むことも教えてもらった。
「俺は今日は飲まないけど、ここのお酒美味しいでしょ?」と尋ねてくるのも頷ける。あまりこういう日本酒のようなお酒を飲まない私でも飲みやすい。