小川くんには隅で見学しててもらい、本田先生とオペを実行する。一分一秒も気が抜けない時間が過ぎていく。手を滑らせれば全てが終わる。そんな中、本田先生と一緒に慎重に剥離していく。

 血管を損傷しないよう、神経を傷つけないよう、顕微鏡を拡大しながら作業を進め、摘出を終えると、本田先生は肩から大きく息をした。よほど緊張しながらオペをしていたことが伝わる。

「本田先生、摘出終わりました」

 そう伝えると、本田先生は「うっ、グズッ」と涙を流し始めた。

 俺はそんな本田先生をそっちのけで、再度綺麗に剥離されているかの最終チェックを行う。腫瘍は綺麗に剥離されていた。

「まだ気は抜かないでください。頭部を閉じますよ。」


 術中に脳や神経の状態を観察可能な装置、通称、術中モニタリングも何事もなく終えることができた。術後の急変や合併症も考えられるため、六時間から二十四時間は集中治療室で患者さんの様態を麻酔科医主導でこまめに確認が必要だ。

 目覚めた後に後遺症がないかを確認できて初めて一息つくことができる。

「それでは以上になります。お疲れ様でした」 

 本田先生はげっそりした様子でオペ室から出て行った。