「私のことより亜矢ちゃんよ!」

 仁田先生はすぐに私のことへと話題を変えた。

 とにかく羽倉先生とのことが気になるらしい。羽倉先生のことを語り始めた。

「羽倉先生ね、あんなに必死で誰かを追いかけたことってないの。どの女性に対してもクールに接してて、女性の顔は一緒に見えてるんだとばかり思ってた」

「……羽倉先生が私に執着するのは、私が祖父の孫だから心配で気にかけてくれているんだと思います」

「本当に? 昨日の夜、一緒に寝る時はなにもなかった?」

 その問いにギクリと背筋を伸ばした。

 一応、羽倉先生から誘われた……気がする。なにもなかったわけではない。なにもなくしたのは私の方だ。

 答えられない私に、仁田先生は細い目をして「やっぱりね」と相槌を打った。

「で、でも、なにもしてません」

「何かしそうになった雰囲気はあったんだ?」

「た、多分……私も羽倉先生もその場の雰囲気に流されそうになっただけなので」

「『多分』って? 亜矢ちゃんの本心はどうだった? 羽倉先生とそうなってもよかったんじゃない?」

 仁田先生は私の迷いにすかさず指摘を入れた。