麻酔科の先生は私のバッグから財布を取り出し「失礼するね」と、中身を確認した。顔がドン引いているのが分かる。

「……すっからかん。札ないじゃん。小銭も……二百五十円しかない」

 女の先生と麻酔科の先生に知られてしまった。

 麻酔科の先生は半笑いしながら財布をバッグに戻す。そして、「えー、まーじーかー」と声を荒げた。

「莉緒香から追い払われて家に家ろうにも帰る手段がなくて……家に着いたらすぐに郵便書き留でお返し致しますので、少しだけ貸していただけないでしょうか……」

 無理を承知でお願いしてみると、女医の先生は自身が持っていた黒い花柄模様のバッグから財布を取り出し、「いいよー」と、お札の束を取り出し私に渡した。

 どう見ても莉緒香に渡した以上のお金を渡され戸惑う。

 女の先生は「それ、百万円。亜矢ちゃんにあげる」と表情を変えずに言い放った。

 百万円なんて初めて見た。
 それに、こんな大金を「あげる」と言ってしまう女の先生にもビックリだ。

「無、無理です! 受け取れません! 三万円ほど貸していただければそれで十分なので!」

 渡された束をそのまま女の先生にお返しすると、「じゃあそれは今から言うお願い料。亜矢ちゃんにお願いがあってさ。そのお金で引き受けてくれない?」と真っすぐな瞳で質問をされた。

「このお金はいらないです! 私にできる頼み事なら金銭関係なく引き受けます!」

 お金はないけど、お金で動く人にはなりたくない。

 ーー莉緒香のようにはなりたくない。