麻酔科の先生は『よしよし』と私の頭を撫でてくれた。

 サインを頼んだだけなのに、先生達はなんでこんなに優しくしてくれるの?

 先生達に「迷惑かけてごめんなさい」と謝ると、「むしろごめん。なんか俺、さっき『友達の旦那と間違いがあるかもしれない』とか余計なこと言っちゃったから……」と、両手を合わせながら謝罪をされた。

「いえ、先生は悪くないんです! 私が莉緒香……友達の気分を害してしまったので……」

「気分を害したらお金を巻き上げてもいいの? それなら、私もあんな光景見せられて気分を害したからあの友達からお金巻き上げられるかなー」

 女医の先生は「そういうことだよねー?」と麻酔科の先生に意見を求めた。すると、麻酔科の先生は「まったくもってその通り!」と強く頷く。

「あ、あの……大丈夫です。元々は持ってたお金で莉緒香に結婚祝いも兼ねて、何かしてあげたいなって思ってたので」

 「だから気にしないで下さい」と言うと、先生達は煮えきらない表情で「うーん」と首が折れそうなほど後ろに傾けた。

「亜矢ちゃんがそう言うんならもうなにも言わないけど……」