「……いいんですか?」
「いいもなにも、これは元は亜矢のお金なんだから」
差し出されたお金を受け取り、自分の財布の中に閉まう。薄かった財布が一気に厚みを増した。
「ありがとうございます、私、もう諦めてました……」
「仁田先生が怒り爆発させてたように、俺もあの子には同じくらいムカついてたから。取り返せて良かった」
ニッと笑う和登さん。「帰ろうか」と私の手を強く握った。
「――で、でも、私まだ全然挨拶できていなくて」
「一人ひとりに挨拶してたら日付け超えちゃうよ。面倒だからいっぺんに済ます。良いから、ついてきて」
席を立ち、私の手を引く和登さんに連れられて、会場の入口まで歩いた。和登さんはスタッフの男性にマイクを借りれないかを相談し、男性からマイクを受け取った。
「皆さんこんばんは。羽倉和登です。元は資産家や大企業のお偉方が集うこの場に、ベリが丘総合病院で働くいち勤務医の身である僕をお呼びいただき、感謝しかありません。ありがとうございます」