和登さんは莉緒香の問いかけにため息を吐きながら、
「亜矢の過去の男の話はどうでもいいし、亜矢が過去つき合ってた男性を悪く言うのは分かるけど、なんでキミが言うの? キミ何様?」
――まるで虫を見るかのように、冷たい視線を莉緒香に向けていた。
「誤解です! 私は亜矢の親友なんで、親友として思ったことを……」
「親友だったら、亜矢の財布から金取ったりしないよね? 無一文で駅に置き去りにしたりしないよね?」
「ち、ちがうんです。それは……私、最近結婚したんで、亜矢からご祝儀を頂いただけで……」
「ああ、それなら俺と亜矢も結婚したからご祝儀ちょうだいよ。亜矢に頂いた額と同額でいいよ」
和登さんは『さっさとしろ』という圧をかけている。亜矢は完全に和登さんの圧に負けてしまったらしく、
「亜矢、いくらだったっけ」
助けて、というような目を私に向ける。
「キミ、自分がもらった額覚えてないの?」
「す、すみません。ええっと、確か……三万?」
「三万? んなわけないだろ。俺、札束を亜矢の財布から抜き取るところを、他の医者と見てるんだけど」
「ごめんなさい、三十万でした! ちょうど財布の中にピッタリあります! ご結婚おめでとうございます! では!」
和登さんに大金を渡すと、そそくさと後ずさる莉緒香。
和登さんは莉緒香から貰ったお札を数えて「きっちり三十万。はい、亜矢」と、私に札束を渡してきた。