「……は、初めまして。咲村亜矢です」
深々と頭を下げる。
旦那は「どうも」と、頭を下げ返さずに流し目で私を見た。胸の奥がチクッとざわめく。なんとなく、この社長と和登さんは仲良くしてほしくない。
「なんで亜矢がここにいるの? 駅に座り込んでたら、誰かお偉い人にお金で買われた?」
莉緒香は失礼すぎる言葉を吐いた。隣に旦那はおらず、他のお偉方に挨拶回りをしに行った様子だった。
「ちがう、私は……」
『和登さんと結婚した』と言いかけた瞬間、立ち話もなんだからあっちの席で飲もうと言われ、セレブの色に染まった莉緒香の後をついていく。
先程取り終えた小皿をテーブルに置き、どう話せばいいか考えていると、
「その指輪とネックレス、即売れしたここの限定ものでしょ。値段も結構高かった気がするけど、どこの社長に買ってもらったの?」
私を金で買われた女、と決めつけている莉緒香は、面白気に質問をしてきた。
「……金で買われてなんてない。ちゃんと好きで結婚したの」
莉緒香の目を見て答えると、莉緒香は「はあ?」と唇を歪ませた後に鼻で笑った。
「莉緒香はそうじゃないの? あの旦那さんと、好きで結婚したんじゃないの?」
「好きで結婚!? バカじゃないの、金持ち相手に何夢見てんのよ。笑わせないでくれる」
「お金のために結婚したの?」
「そうね。あんたもそうでしょ? そんな高そうなもの身につけて、自分は違うみたいな顔しないでよね」