「あちらにトレイやお皿がございますので、こちらからあちらまで並んでいるテーブルの料理をご自由にお召し上がりください」
一部始終を目にしていたのだろう、会場スタッフの男性が私に声を掛けてくれた。
「ありがとうございます。いただきます」
料理はどれも華やかで、綺麗に大皿に盛られている。
会場にいるお偉方はあまり食べないのか、どの皿も全然減っていない。せっかくだし頂こう。
料理を皿に取り分けていると、
「――あれ? 亜矢?」
聞き覚えがある声が背後から聞こえてきた。後ろを振り向くと、立っていた人物は、綺麗な身なりをした莉緒香だった。
まさかこんなところで再会することになるなんて思いもしなかった。
そうだ、莉緒香は大企業の社長と結婚したと言っていたんだった。
恐らく莉緒香の旦那にあたる人だろう、男性を見てみると、年齢は五十代半ばといった感じで、眼鏡を掛けて硬苦しそうな印象だった。
「こっちはね、私の旦那」
随分年上の方と結婚したんだなと思いながらも、私とのことは何事もなかったかのように、旦那の紹介をし出す莉緒香に息が詰まる。