脳内で深呼吸を繰り返し、気持ちを落ち着かせたことによって、やっと余裕が生まれたような気がした。

「亜矢、自分の名前分かる?」

「はい。……咲村……亜矢」

「ここがどこだか分かる?」

「病室……」

「この街はどこかわかる?」

「ベリが丘」

 和登さんの質問に一つ一つ答えていく。私が答えていくことによって、和登さんの表情も柔らかくなっていった。

「最後に、僕が誰だか分かる?」

「和登さん……」

 全ての質問を答えると、和登さんは私を優しく抱きしめた。私から離れた後に、

「とりあえずは脳も正常に機能しているようですが、時間をかけてもっと詳しい検査をしていきます。歩行の練習も亜矢さんの体調と相談していきながら始めます。予定では二週間後に退院になります。皆さん、ありがとうございました」

 説明をしながら、和登さんは病室にいる全員に向かって頭を下げた。その後の検査やリハビリのおかげで無事に二週間後に退院できることになった。

 最初の質問のときは途切れ途切れだった私の言葉も、何の苦もなく話せることができている。それもこれも、このベリが丘総合病院に努めている先生や看護師さんのおかげだ。