仁田先生はなんで羽倉先生が医者を辞めるのかは答えずに、

「望んでいなかったとしても、自分がどうしたいかなんて止められないよ。亜矢ちゃんが羽倉先生に離婚届を出す意思があるように、羽倉先生も医者を辞める意思がある」

 だから止める権利はない、とでも言いたそうに淡々と話す。

「……なんで羽倉先生、医者をやめるんですか。教えてください、お願いします」

 話を反らす仁田先生に涙ながらにお願いすると、

「亜矢ちゃんも説明受けたと思うけど、今回の術式難易度が高くてね。バルーンカテーテルを使用するから熟練された内科の医者も用意しなきゃいけない。院長にも猛反対されて止められたんだけどね、そしたら羽倉先生が次の日、辞表持ってきて『この手術を最後にする形で全責任を僕が取るんでお願いします』って土下座して。だから、少しは羽倉先生の気持ちを考えてくれないかな」

 仁田先生は寂しそうに微笑んだ。