俺のことが『好きなのに、大切なのに』こう言われるなんて思いもせず、嬉しくてそっと抱き寄せる。
「本当? 嘘じゃない?」
「はい。冷たく突き放してしまったこと後悔してたんです。でも、もし仮に何かあったときに伝えられないことだけは後悔したくなくて」
亜矢が『仮に』ばかりの話をするため、俺も意地になる。
「仮に亜矢に何かあったとしても、俺は離れる気ないよ。元からそのくらいの覚悟はしてる。そのうえで一緒にいたいって思ってる」
「……私、和登さんにはもう咲村家から開放されてほしかったんです。だからお願いです。もし私に何かあったら以前お渡しした離婚届を提出してください。お願いします。それが和登さんへの最後のお願いです」
俺の幸せのためにそういうことを言っているんだとしたら、どこまでもお人好しで、亜矢はどこまでも自分のことを蔑ろにする。
「うん、分かった。俺も亜矢への最後のお願い事を言うけど、無事に手術が終わったら、ずっと一緒にいてもらうから。亜矢だけ俺へお願い事言うのは不公平」