翌日、「じゃあ俺は先に戻ってるから、引っ越しの当日まで無理しないで。婚姻届、出しとくね」亜矢にそう伝えて先にベリが丘に戻った。

 事前にホテル側には今日付けで契約の解約をしていたため、自分の荷物を車に運び、その足でベリが丘の不動産屋に行き、新居に移動する。

 既に不動産と契約購入した家具、家電は中へ運び込まれており、すぐに使用できる状態になっていた。ありがたい。

「説明は以上になりますが大丈夫でしょうか? 何かありましたらすぐに御社の従業員がそちらに向かいますので、ご連絡くださいませ」

「はい。ありがとうございます」

 鍵を預かり不動産屋が出ていった後に部屋や玄関にネットワークカメラを数台設定する。使用人も雇うということや、防犯意識で別に中の様子を盗み見ようなどと、やましい気持ちがあるわけではない。


 最近は会えていないが、Barの飲み友達だった二十七歳、弁護士の東郷(とうごう)の受け売りで『何かあったとき、一番求められるもんは証拠! 男持ちの女抱いても証拠があればなんとかできる!』という意味がわからない矛盾を立証させようとする、恐ろしい男。

 全てのカメラを取り付け終えた直後チャイムが鳴った。部屋の中から門を確認すると「おはようございます。今日からよろしくお願いします」と、羽倉家の女性の使用人が門に立っていた。