亜矢もそれが何なのかピンときたようで、「お爺ちゃんの遺産はお父さんとお母さんが死ぬまでに使うお金でしょ?」と問いかけた。

 ……やっぱり。これは咲村さんの遺産通帳だ。

 お義母さんは亜矢に向かって「何言ってるの!」と怒り気味に声を上げた。亜矢も負けじと言い返す。

「だって、お母さんとお父さんはずっとおじいちゃんの遺産で生活してるんでしょう? 仕事もしてないし」 

「仕事してるわよ! お父さんは在宅ワークになって部屋で仕事しているし、逆に何で遺産で生活してるって思ったのよ! そっちの方が怖いわよ!」

「だって……ずっと家にいたし、お爺ちゃんの遺産があるから安心って言ってたし」

「それは亜矢が将来嫁ぐってなった時に、これだけあれば安心って意味よ! いい!? 親族で分配はしたけれど、お母さんもお父さんもお爺ちゃんの遺産には一円たりとも手だしはしてないからね!」

 どうやら亜矢の勘違いだったようで、呆れながら大きなため息をつくお義母さん。亜矢は目に涙を溜めていた。