二人は驚きながら婚姻届に目を通している。
「保証人の欄は僕の戦友で友人のお二方の先生達に記載していただきました。勝手に申し訳ございません」
また、深々と頭を下げるとご両親は目を見開いて俺に視線を向けている。
お義父さんは遠慮がちに俺に問いかけた。
「私のところは亜矢しか子はいないから……その、むしろ、ありがたいが……羽倉先生のところは……」
「それは問題ないです。僕には長年働いていない弟がおります。家族とは亜矢さんと結婚するにあたり、ちょうど縁を切ってきましたので」
「え、縁を?」
「僕の父も母も、僕の今までの人生を咲村さんに囚われていたと感じていたようで、亜矢さんに心無い言葉を浴びせました。僕は確かに咲村さんの死がきっかけで医者になろうと決意しましたが、その道が僕は間違いだとは思っていません。むしろ、早くに将来を定める決断をさせてくれたことに感謝しているほどです」
「……羽倉先生……」
「あの時医者になっていなかったら、ベリが丘総合病院で働こうと決意しなかったら、亜矢さんと会うことはなかったと思うんです。僕、今最高に幸せなんですよ、お義父さん、お義母さん」