俺が医者になろうと思ったきっかけ、咲村さんから亜矢の話を聞いて知っていたこと、亜矢とベリが丘で偶然出会い、交際期間も無く結婚を迫ったことを隠さず話した。

 だが、さすがに気持ち悪がられるだろうと思い、咲村さんと亜矢の写真を肌見放さず持ち歩いていることは言えなかった。

 お義母さんもお義父さんも俺の話に顔を曇らせている。

「――なので、亜矢さんと結婚したいんです。お願いします」

 深々と頭を下げて許しを請う。

「…………キミは、祖父に囚われすぎなんじゃないか? ましてや、まだあの時はキミも幼かっただろう。キミを責める人は誰もいない。キミの生きたいように生きてほしい」

 『囚われすぎ』聞き覚えがある言葉が聞こえてきた。

 俺は過去も今も生きたいように生きている。

「囚われてなんていません。僕は、ベリが丘の街で亜矢さんと一緒に暮らしたいです。勝手ながら既に新居も契約しました。事後報告となってしまい申し訳ありません」

 謝ると、亜矢はお義父さんとお義母さんに「豪邸みたいで、すごいんだよ!」と、昨日契約したばかりの新居の写メを見せていた。

 お義父さんは気を良くしてくれたのか、「まあ、亜矢は可愛いからな!」と、俺が亜矢と結婚することに反対はしなかった。

 よかった。一息つき、次の相談を持ちかける。

「それともう一つお願いがありまして。僕にこの『咲村』の姓を継がせてもらえないでしょうか」

 お義母さんとお義父さんの目の前に婚姻届を提示した。