「ひとつどうしても伺いたいんです。私を選んだ理由を教えて下さい。左遷された私なんて、もめ事のタネにしかならないのをおわかりですよね?他にも優秀な女性秘書は秘書課にいます」

「香月。お前を俺の下に付けようとした理由の一番は、今のように俺に臆することなくきちんと意見が言えること。それに専務の秘書で彼のやってきたことをよく知っていること。そして秘書として優秀なのも知っているからだよ」

「辰巳さんのようにはできません」

 彼は大きなため息をついた。
 
「それも心配ない。アメリカ支社から戻ったら、お前を入れた新体制で仕事をしようと楽しみにしていたんだ。それがどうだ。専務はいない、お前まで支社に飛ばしていた。俺のショックがお前にはわからんだろ」

 わかるわけないじゃない。私を秘書に考えていたなんて聞いてなかったんだから……。私は崇さんに頭を下げた。

「申し訳ありませんが、もう一度本部に戻ることも、崇さんの秘書をやることも無理です」

 崇さんは拳を握って、机を叩いた。びっくりした。