「そんな……それにしたって……」

「そうだな。いずれ、専務を呼び戻せるようにするつもりだ。香月、悪かった。まさか、本部から君を出すとは想像していなかったんだ」

 そう言うと、崇さんは立ち上がって、私に頭を下げてくれた。びっくりした。

「やめて下さい。頭をお上げ下さい……私こそ何も知らなかったとはいえ、失礼な言い方をして申し訳ありません」

「香月。お前、上には辞めたいと話したらしいな」

 それは……もちろん仕事のことだけではない。崇さんにはわからないプライベートな事情もあってのことだ。

「はい。最初は辞めたいならどうぞというような雰囲気でした。でも、辰巳先輩が……お前にやって欲しいことがあるから支社へ行ってくれないかと……あの雰囲気の中、秘書課に戻る気はさらさらなくて、支社なら実家から通えるしいいかなと思ったんです」

「父から……総帥からは何か言われた?」