「あ、あの……」

 長い指でコーヒーの縁をはじいた。カチンと音がする。

「このコーヒーまずい……ワザと君が入れなかったのか?君のコーヒー、半年ぶりで楽しみにしていた。わざわざ支社まで来たのに、ずいぶんな仕打ちだな」

 こういう素直じゃない話し方は彼の通常運転。いつも専務に突っ込まれていた。私は素直に褒められたためしがない。支社長は彼が私に向かって最初から嫌みを言うのを聞いて驚いたんだろう。黙っている。

「……支社長」

「……はい」

「香月は……ここでどうでしたか?」

 支社長は答えた。

「あ、はい。半年間私の庶務をやってもらってまして、彼女が仕事をまとめてくれるようになってからすごく楽に……特に本部へ彼女を通すとあっという間に返事が来てですね……」