支社長が手を叩いてみんなの目を自分に向けさせた。

「皆さん。大勢のギャラリーが社食にいたので、先ほど目にした人もいるかな。海外から少しだけ帰国された御曹司が、わざわざうちの支社へいらっしゃいました」

 辺りがシーンと静かになった。

 彼は周りを見渡すと一歩前に出た。半年前より少し痩せたが、そのせいで精悍に見えた。

 周りを見渡した彼は、最後に支社長の一番近くへいた私に目を留めた。一瞬目が合ったような気もしたが、すぐに目をそらされた。

「皆さん、いつもお仕事ご苦労様です。榊原です。今日は部長に関わることで少しやるべきことがあり、急遽こちらに伺いました。二、三日ですがお世話になります」

 皆がパチパチと拍手をする。ふたりは打ち合わせがあるのだろう、隣の支社長室へ入っていく。御曹司が先に入る。支社長が入る前に急いで声をかけた。

「支社長」

「ん?」