「そうやって知らないフリしてると損しますよ。私みたいに欲しいものは欲しいって言わないと手に入りませんからね」

 彼女がチラリと私を見た。

 すると、ざわざわという音とともに、きゃあ、という黄色い声。あっという間に他の女子社員達が走って戻ってくると席についた。ポーンというエレベーターホールの音がする。私達もお互い席に戻った。

 支社長と一緒に歩いてくる背の高い彼が遠くからでも見えた。ああ、相変わらずの美貌。でも少し痩せたような気がする。あれから色んな事があった。

「専務のことは放りっぱなしで何してたのよ!」と問い詰めたいくらいだけど、もういい。

 小さい声で難波さんら若い女性達が、足が長いとか、かっこいいとか、例のごとくささやき始めた。

 支社の人は知らないのかもしれないが、具体的に花嫁候補として存在する秘書課の女性陣もいる。

 支社の女性達には可哀想だが、ここは久しぶりに御曹司を生で見られてよかったねとはしゃぐくらいで丁度いいのかもしれないと思う。