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「すみません、新藤さん」

 帰り際に秘書室長である新藤さんの部屋を訪ねた。

「香月さん……慌ててどうしましたか。御曹司に何か?」

 銀のフレームの眼鏡を抑えながら、細身の新藤さんは私をちろりと見た。蛇みたいな眼で怖い。でも勇気を持って聞くと決めた。

「……あ、あの。実は急に本邸の大奥様へご挨拶に伺うこととなりまして、もしご存じでしたら大奥様のお好きなものとか、これはダメというものがありましたら、教えて頂けませんか?」

「大奥様に……そうですか。出張のお土産ですね」

 さすがだ。

「はい。崇さんが出張のお土産を渡したいから本邸に行くと言われていて……」